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数学タグがついていますが、あまり数学とは関係ない話です。
ですので、何か数学的な情報を求めてここにたどり着いた方は、以下の文章は数学的に参考にしないで下さい。
また、以下に実在の人物が登場するように見えますが、あくまで実在の人物をモデルに作られた架空の人物についての話であることを、注意しておきます。


カフェで、女子高生数人が、
《問題》

sin((π/2)+θ)を、cosを用いて簡単な形で表せ

という問題(?会話から推測したので詳しくはわからず)について話していて、その内の1人の女子高生が、「私超便利な方法知ってるんだけどー」とか何とか言って、披露していた方法(を会話の断片から推測したもの)。
《発言》

sin((π/2)+θ)のπ/2ってπとか(3/2)πじゃなくてπ/2だから、(π/2)+θって第二象限じゃん。
だってもしそうじゃなかったら、(3/2)πとかにすんじゃん。
だから、
-cosθ。
合ってる?(と言って答えを見る)

いや、そのりくつはおかしい。
解答は-cosθではなく、おそらくcosθですね。
しかし、彼女の言いたいことはわかる。
彼女の言いたかったことを最大限尊重しつつ、ある程度ちゃんとした主張に直すとこうなるかもしれなません。
数学的にちゃんとしてないので注意してください。
《修正版》

仮定
こういう問題の出し方からして、答えはcosθか-cosθだろう。


0<θ<π/2と仮定する。
このとき、π/2<(π/2)+θ<πである。
このとき、00,-cosθ<0より、∃θ sin((π/2)+θ)≠-cosθ
よって、∀μ sin((π/2)+μ)=cosμ



なんかむちゃくちゃですが、冒頭の大胆な仮定を認めたとすれば、正しい。
まあ、このようなことを彼女が考えていたのかどうかはわかりませんが、近いことは考えていたのではないかと。

で、彼女の発言に即して、彼女が何を考えていたのかを推測してみる。
《発言》

sin((π/2)+θ)のπ/2ってπとか(3/2)πじゃなくてπ/2だから、sin((π/2)+θ)って第二象限じゃん。

「第二象限じゃん」とは、「xy平面において、ベクトル(1,0)を(π/2)+θ回転させると、その行き先のベクトルは第二象限に存在するじゃん」の意と考えられます。
当然ながら、この主張は論理的には間違いです。θは任意ですから、ベクトル(1,0)を(π/2)+θ回転させたベクトルがどの象限に存在するかは一般にはわかりません。
ただ、0<θ<π/2という仮定を付け加えるならば、彼女の主張(を僕が解釈したもの)は正しくなります。


また、これは論理的にそうである、ということではなく、単なる簡便のための慣習ですが、三角関数の引数をqπ+θ(qは有理数)のような形で表すとき、「θがある範囲に収まるようにqを定める」という習慣がありますね。θのある範囲、というのは、[0,2π)とか(-π/2,π/2)とか、場合によって違いますが、まあとにかく、その範囲に収まっていればわかりやすいな、と思う範囲なわけです。
*1
彼女が前提としていると考えられる、以下の「推論(らしきもの)」は、数学的な推論ではなく、日常的なコミュニケーションをする際に用いられる程度の曖昧さの推論です。
《推論》
「このような慣習を前提とする場合、(π/2)+θにあらわれるθというのは、0<θ<π/2に収まると思われる。というのも、もしn*(π/2)≦θ<(n+1)*(π/2)ならば、(π/2)+θ=(n+1)*(π/2)+(θ-nπ/2)であるから、(π/2)+(θ-nπ/2)という、より簡単な形で表わされることになり、慣習に反するからである。0≥θのときも同様」
この《推論》にも、さらに《前提》があります。その《前提》とは、角度の表わし方の慣習に関する《前提》で、
(1)n*(π/2)+θ(nは整数)という形に表したとき、|n*(π/2)|≥|θ|が成立する表し方は、そうでない表し方より、「簡単な」表し方である
(2)n*(π/2)+θ(nは整数)という形に表したとき、0≦θとなる表し方は、そうでない表し方より、「簡単な」表し方である
(3)2つ以上の表し方がありうるとき、より「簡単な」表し方を用いる。
これらの慣習に関する《前提》(ある程度妥当と言える仮定だと思います)を考慮するならば、今の《推論》も妥当になると思われます。




なのですが、実際には、数学の文章は日常会話ではないので、彼女の(彼女が前提にしたのではないかと考えられる)《推論》は、論理的には正しくないわけです。慣習はあくまで慣習であって、そう表さなければいけない、という数学のルールがあるわけではなく、単なる慣習であって、それを破っても論理的に誤っているとはされないのです。
しかし、この日常会話における《推論》と論理的な推論の違いについての話は重要なのでまたあとで議論します。


さて、冒頭の彼女の《発言》に戻りますが、今考えたことで、だいたい彼女の《発言》のポイントは尽くされています。

πとか(3/2)πじゃなくてπ/2だから

とか

だってもしそうじゃなかったら、(3/2)πとかにすんじゃん。

とか
というのは、《前提》に基づいた《推論》の内容を言っているものと考えられます*2






最後に、なぜ-cosθという誤った答えを導き出したかですが、まあこれはよくわかりませんが、「第二象限だ!→第二象限の角θに対してcosθは負だ!→しかしsin*3
彼女も、めちゃくちゃなことを言っているようで、正解(当然ながら、《修正版》は正解ではありません。)に近いところにいるとは思います。
『この方法で楽に答えが得られるのは、「一つの値で等式が成り立たなければ恒等式は成り立たない」という事実に依っている』という認識は、漠然とかもしれませんが、あると思いますし。








で、ここからが本題なのですが、もし僕が彼女の家庭教師であれば(尤も、女子高生の家庭教師として僕が雇われることはないでしょうが。妄想乙)、彼女のミステーク(もし彼女が僕の想像通りの間違いを犯しているとして)について、どこを最も重視するかといえば、やはり「単なる数学的な慣習と数学の論理的なルールを混同していること」ですね*4
しかし、考えてみれば、「単なる慣習」というルールと、守らなければならないルールを区別するのは、慣れていないとかなり大変なことのように思えます。
これは数学の話に限ったことではなく、むしろ、実生活の方が、多様な優先度のレイヤーを持つルールを、区別し、遵守したり破ったりしなければならないため、大変であるように思われます。
例えば、囲碁について考えてみますと、

  • 相手がパスしてもいないのに、二手連続で打つ。
  • 着手禁止点に打つ
  • 定石から外れる
  • ハメ手を使う
  • 対局中に放歌する
  • 突然対局相手が中座したと思ったら、日が暮れても帰ってこなかった。
  • 対局に負けて腹が立ったので、相手を殴り、むりやり自分の勝ちだったことにした
  • 塔矢を三将にする*5

などの、それぞれ、あるルールによって禁止される行動があるわけですが、各々が違う優先度のルールによって禁止されていて、どれを破ってよく、どれを遵守しなければいけないのかの見極めは、きわめて難しく見えますが、慣れた人は軽々とやってこなすわけです。
これは実に不思議なことであるなあ、というのがこのエントリで言いたいことです。
「ルールの階層の違い」を意識し、適切な行動をとることの困難さは、フレーム問題(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%A0%E5%95%8F%E9%A1%8C)の困難さに似ているように思われますが、この意見は素人の意見なので的外れかもしれません*6
この「ルールの階層の違い」はあまり意識されないこともあるので、塾で生徒に授業をする際・ゲームのインスト(「インスト」とは、おそらくinstructionの略で、ゲームのルールなどを説明すること)をする際・フィールドワークでアマゾンのある部族の調査をする際・子どもに「なんであのおじさん赤信号なのに渡ってるの?」と聞かれた際・外国語を勉強する際などには注意する必要があります。


まあ今日はこのへんで。
今日書いたことと似たようなことは、ルールタグの他の記事に書いてますね。
まあ重要なことなので何回も書きます。

*1:そのように範囲を限定する理由として、簡便のためということのほかに、そのような条件を満たすような組(q,θ)とqπ+θが一対一に対応するようにするため、ということがある場合もあると思いますが。例えば、θの範囲に制限をつけないと、(q,θ)=(0,2π)のときと(q,θ)=(2,0)のときが同じ角度を表すことになる。

*2:と言っても、冒頭の《発言》が、その裏にこのような《推論》があるのではないか、と邪推する僕によって再現された恣意的な発言の記録なので、辻褄があうのは当たり前とも言えますが。

*3:π/2)+θ)は正だ!→答えはcosθか-cosθのどちらかだから(《修正版》の「仮定」より)、-cosθだ!」という思考回路でしょうか? この思考のどこで誤っているかといえば、「第二象限の角θに対してcosθは負だ!」の部分で、ここでcosの値を考えなければいけないのはθなのですが、第二象限に動径が存在するのはπ/2+θであって、θではない、という点で誤っているのですね。 まあ、あくまでこの「思考過程」は、蓋然性の低い想像なので、「ここが誤ってる」と指摘するのはあまり意味ないですが。

最初にあげた《修正版》は、数学上の慣習についての前提に基づく日常的な《推論》の部分を、「θについての仮定」におきかえて、最初に大胆な仮定を明示し、恒等式が成立するための必要条件から答えを絞ったものです((θについて、「0<θ<π/2と仮定する」といちいち書くのは大げさで、「0<θ<π/2なるθをとる」くらいで十分ですが、彼女の元の発言の雰囲気を残すため、あえてこうしました。

*4:まあ僕は家庭教師も塾講師もやったことがないので、本来はそこを重視すべきではないかもしれませんし、また、何を重視するかは人によって違うと思いますが

*5:小学校や中学校の囲碁や将棋クラブの顧問などには、団体戦では強い順に大将・副将・三将の順番に並べるべきだ、と考えている人がいるらしい

*6:フレーム問題についてhttp://imi.sfc.keio.ac.jp/fruits/2003_com_dyna/frame_problem.htmlこういうの「あとで読む」タグなんてつけてたら一生読まないので、今日読みます