9マス将棋(1)

青野九段考案の9マス将棋について少し考えてみよう。*1

ルールは、まだ入手してないので分からない点もあるが、まさに最初からクライマックス プロ棋士考案の「9マス将棋」、スタッフと対局してみた - ねとらぼによれば
駒の動きは通常と同じで、使用する駒は通常のセットのサブセット、初期配置はいくつか固定されたものが提案されている。
「成り」は3段目から成れるのではなく1段目で成ること以外は通常と同じか。
行きどころなき駒、打ち歩詰め、手詰まりなどについて分からないが、とりあえず今日のところは、(チェスではなく)将棋と同じように「手番で指す手の選択肢がなくなった方は負け」とだけ仮定する。

棋譜の読み方は右上を1一として(以降は簡単のために漢数字を使わず単に算用数字を2つ並べることにする)、通常の将棋と同じように、列が動くと第1成分が動き、行が動くと第2成分が動くとする。

命題1
盤上には互いの王将2枚だけで、こちらだけが1枚以上持ち駒を持っている状況は手番に関わらずこちらの勝ち。
証明
以下、一般性を失わずに「こちら」は先手(「この局面で」ではなく、ゲームが始まった時に)だとしてよい。
以下、先手が命題の仮定の状況を崩さず(=持ち駒を渡さず)に勝つことができることを証明する。
補題でも、命題の仮定が満たされているものとする。
補題1
先手が王手をかけられることはない。
補題1証明
明らか。
補題2
12または32に先手玉がいたら手番に関わらず先手の勝ち。
補題2証明
先手の手番だとして一般性を失わない。
補題1より先手に王手はかかっていない。
先手の持ち駒に前に進めるものがあれば、22◯打→21◯成→22△(△は◯が成った駒)→23△という手順を指すことができる。この間、先手は王手をかけられることはないから確かにこの手順を指せる(前に行ける駒が成った時、その駒の利きは金の利きを含むことに注意)。この手順の途中で後手に合法手がない状況が生まれていれば、その時点で勝ち。
そうでなければ、22△の次、後手は13玉と指すしかない。(ついでに言えばこの△は金と同じ動きの駒)
このとき、次の23△で後手玉は詰み。
次に、先手の持ち駒に角があるとき。
22角打→n1角成(ただし、nは先手玉がいる筋)→22馬という手順を進めることができ、この手順の途中か最後で後手は合法手がない状態になる(詰みを含む)。
最後に、先手の持ち駒に桂があるとき。
23桂打→n1桂成(ただし、nは先手玉がいる筋)→21成桂→22成桂→23成桂
という手順を指すことができ、この手順の途中か最後で後手は合法手がない状態になる。

12または32のマスのことを、チェスの用語に倣って*2クリティカルスクエアと呼ぶことにする。
先手が持ち駒を使わずに12または32に行けない局面は、先手玉がnk, 後手玉がnm(ただし、n=1, 2, 3, k,m∈{1,3}, k≠m)にあって、先手の手番という場合だけである。つまり、同じ筋で向かい合っている先手の手番の局面。
このような玉が同じ筋で1つマス目を挟んで位置する状態をこれまたチェスに倣ってオポジションと呼ぶことにする。(11と33のように、斜めで向かい合う形もチェスではdiagonal oppositionなどというが、この盤は狭すぎるので、とりあえずは同じ筋にある場合のみを指すことにする)
手番が先手、というのは、もし後手の手番だったら、先手はオポジションを保つように指すことで、2筋のオポジションで後手の手番の局面にすることができるが、この局面で後手はツークツワンクに陥っており、玉を1筋に動かしたら3筋の、3筋に動かしたら1筋のクリティカルスクエアをとることができ、勝つことができるから。

(i)先手が3段目、後手が1段目にある場合
今まで述べてきたことより、先手が3段目で玉を左右に動かしたら、後手はそれに追随して1段目で同じ筋に玉を動かすしかない。よって、先手13玉、後手11玉で手番先手の形にすることができる。
このとき、先手が前に進む駒を持っていたら、22にその駒を打って後手は手詰まり。
また、角なら32、桂なら33に打てばやはり手詰まりで勝てる。
(ii)先手が1段目、後手が3段目にある場合
(i)と同様に、後手は先手が玉を動かす手に呼応して同じ筋に玉を動かすしかない。
先手の持ち駒が角のとき、先手11玉、後手13玉の形で12角と打てばよい。
先手の持ち駒が前に進める場合、先手11玉、後手13玉の形で32◯→21玉→31◯成→32△(△は◯が成った駒)→22△で、まだ先手が勝ってなかったら玉を左右に動かして後手は13玉か33玉の形で、手詰まり。
先手の持ち駒が桂のとき、先手11玉、後手13玉の形で33桂→21桂成→22成香以下前に進める駒の場合と同様に勝ち。
以上より命題1は示された。

クリティカルスクエアを押さえれば勝ちじゃん、と思ったが、オポジションで手番を取らされるパターンがあったのでその場合の場合分けが少し面倒だった。今回はとりあえずこれだけ。

*1:と言っても、「考えてみよう」という読者に語りかける調子で緻密に用意された原稿が出てくるわけではなく、本当に「考えてみよう」というノリで考えてみるだけだ。

*2:僕が勉強したPandolfiniの本にしたがって