表題の本読み。
概ね、前半は教育経済学の成果のやや雑多な紹介、後半はエビデンスに基づく教育政策決定の擁護。
後半に関しては、全く以っておっしゃる通り。
ただ、同時に、日本ではなかなか理解を得るために苦労しそうだなという気も遺憾ながらする。
前半については、いろいろ興味深かった。
子どもを「ご褒美で釣る」のは効果的だ、とか。
勉強時間を増やすためには、単に「勉強しろ」と言うだけではなく、「時間を決めてやらせる」「勉強を見る」などより積極的なコミットが効果的、ということなどは、バイトでも役に立ちそうだ。
「非認知能力」の重要性については、読んでいて大変つらい思いをさせられた。
曰く、
どんなに勉強ができても、自己管理ができず、やる気がなくて、まじめさに欠け、コミュニケーション能力が低い人が社会で活躍できるはずはありません
中室牧子『「学力」の経済学』p.88より
こういうレトリックって、「全部当てはまる人はほとんどいないから自分のことだと思ってショックを受ける人はいないだろう」と思って書いているのだろうけど、全部当てはまる人はどうすればいいのか。
だいたい、自己管理とやる気とまじめさって独立変数じゃないでしょ。
ところでこの手の表現は別の本でも見た。
内向的で、神経質で、偏狭で、利己的で、頼りにならないという哀れな人がそうなった原因の一部は、おそらく遺伝子にある。
スティーブン・ピンカー著 山下篤子訳『人間の本性を考える(上)』
まぁ、こちらはさすがに全部ぴったり当てはまるわ〜とまでは思わないが、「哀れな」とまで言われるのか…と思う。
閑話休題。
先ほども言ったように、前半は必ずしも何かのテーマについてまとまって述べているわけではないので、例えばこの「非認知能力」を「鍛える」方法についても、数行言及されているだけ(「自制心」を鍛えるためには、自ら計画を立て記録することが効果があるとのこと)。
それについて詳しく知りたければ他の本を当たる必要があるだろう。
また、色々な論文の成果を紹介するという形式で、まとまった論考ではないので、全体として統一感に欠けるところもある。
例えば、p.88では、プリンストン大学のボーウェン教授の見解としてだが、「SATの成績は認知能力のみを表す」としているが、p.91では非認知能力の一つである自制心がある子どもはのちに「SATのスコアがずっと高かった」ことを紹介しており、(むろん整合的に解釈する方法はいくらでもあるだろうが)素朴に考えれば違うことが述べられているが説明もない。
これは別に著者の責任ではないかもしれないが、p.95に紹介されている神戸大学の西村教授らの「しつけ」は年収を高める効果があるという研究*1は、素朴に考えれば、「しつけ」が年収を高めたのではなく、教育熱心な親の(しつけ以外の)文化資本や遺伝子が、しつけをすることと子どもの高い年収両方に共通する原因ということも考えられると思うのだが、論文を眺めてみても統計弱者ゆえそのバイアスが取り除かれているのかはわからなかった。今後ちゃんと論文を読みたい。
(追記)
僕の感覚が世間の物価上昇について行ってないだけかもしれないが、この本の新書程度の内容で1600円は高いと思う。
せめて1200円くらい。
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*1:西村和雄・平田純一・八木匡・浦坂純子「基本的モラルと社会的成功」http://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/14020005.html