第2回東大実戦模試〜Honey Boyは死んだのか?〜



第2回東大実戦模試(駿台)の英語5番の問題について。


試験中にはHoney Boyは死んだものだと思っていたが解答には「実際は死んでない」とも読み取れる書き方がされている。
実際はどうなのか?


解答の真偽は別としても、これは文学作品からの引用なので、さすがに空欄補充に関しては解答が正しいと想定する。




【状況について】


24ページ下から3行目に

But when she heard Honey Boy's name,and then the words"was wanted dead or alive"

とある。
ここまで読んだ時点で、Honey Boyの状況について、2つの解釈が成り立つ(いやこれは僕の英語の能力が低いだけでどちらか片方の解釈しかありえないのかもしれないが)。
すなわち、
1.Honey Boyが何らかの事件に巻き込まれて、その容疑者が指名手配されている
2.Honey Boyが指名手配されている
の2つである。


しかし、25ページ16行目の保安官の台詞に

There was a $100'000 reward to turn in Honey Boy dead or alive

(生死は問わずHoney Boyには懸賞金10万ドルがかかっていましてね)
とあることから2の解釈に限定される。


さてその後死体の確認の場面。
25ページ11行目

they both looked at the beehive birthmark

(彼ら(保安官とMom)は二人とも蜂の巣の模様のあざを見つめていた)

a tiny tear welling up in the corner of one eye
引用者注(問題文では"eye"が穴埋めになってる)

((Momの)目の端にこみあげてきたわずかな涙)


を見ると明らかにこの死体はHoney Boyである(蜂の姿のあざはHoney Boyの特徴)。
また、問題文最後の

"Oh,Honey Boy…Oh,Honey Boy…Oh,Honey Boy."

(おお、Honey Boyよ、と呟くMom)
も根拠になりうるだろう。


これらの多くの状況証拠にもかかわらず、Momは26ページ17行目で

That's not Honey Boy

と述べ、
また保安官は27ページ4行目で

You've killed an innocent man

と言っている。
これらはHoney Boyの死を認めたくないMomがついこれはHoney Boyではないと言ってしまい、その気持ちを察した保安官が、金がもらえると単純に(少々知能の発達が遅れているという含みもあるのかもしれない)喜んでいるBig BlueをMomの手前逮捕してみせ、それによってMomの心の痛みを少しでも和らげようとした(金目当てに息子を殺した男がなんの裁きも受けず、あまつさえ金をもらうのを見て母親はどう思うか?)、と解釈できる。
僕はこれが一般的な解釈だと信じる。


「あざなどの状況証拠とMomや保安官の『赤の他人』発言とどちらも証拠としての重みは同じなのにどうして状況証拠のほうを採用するのか」という反論にも一理あり、まあうまくは説明できないのだが、まずひとつの根拠として、今述べた「実際はHoney Boyの死体なんだけどMomはうそを言い、保安官もその気持ちを慮った」という解釈がよくある文学のパターンぽいということ。
このよくあるパターンってのはつまり、「本来事実を重んじるべきであるはずの保安官がMomの気持ちを思いやってうそに乗ってあげる」というギャップを描くこととかそんな感じ。


もう一つの根拠としては、あざなどの状況証拠は作者が描写しているものであるが、赤の他人であるとする根拠はどちらも登場人物の発言である。
であるとすれば作品において神であるところの作者の描写のほうを信用するのが常道というふうに思われる。






もちろん、死体はHoney Boyと似たあざを持つ赤の他人で、Momが泣いたのは死体がHoney Boyじゃなくてほっとしたからで、最後にHoney Boy…と呟いていたのは現在のHoney Boyの身を案じて、ということもなくはない。
しかし、もしあざが赤の他人のものであったならthey both looked at the beehive birthmarkなどとはっきり暗示(というより明示)している以上、「実は死体は他人のものだったのだ」などと作者が書くはずである。
もちろん、この作者が一般的な文学のお約束みたいなのにはのっとらない主義で、登場人物の発言一つで今まで張ってきた伏線を全部ひっくり返したのだ、ということも考えられなくはない(そんな作品ミステリならたくさんありそうだ)。
それに対するメタ的な反論は、そのような難解な解釈を必要とする文学作品を英語の入学試験で出題すべきではない、ということだ。






まあ、いずれにせよ、死体はHoney Boyの死体で、Momは嘘をついたのだ、という解釈は多く同意を得られるものと信じる。




【では解答はどうなっているか】
まあここからは解答執筆者が何を考えてこの解答を書いたのかという憶測に移る。


問題(8)は

"That's enough,sheriff. You know that a mother always knows her son.(8)"

の(8)に当てはまる表現を選べというもの。
答えは
That's not Honey Boy.
というもの。
まあこれを(8)の空欄に入れて筋が通るのは今まで見てきたとおり納得できるし、実際の作品にもそう書いてあるのだろう。
ところが、解説を見ると、

保安官はMrs.Summersの遺体確認時の証言に基づいてBig Blueが「無実の男」を殺害したと判断したのであるから、Mrs.Summersの証言は、「遺体は〔指名手配されている〕ハニー・ボーイではない」という内容のはずである。

とある。


しかし、この解説では保安官がMomの気持ちを慮ってMomの嘘の証言を認めたというニュアンスが伝わってこない。
伝わってこないというよりもむしろ、「保安官はMomの証言を素直に信じた」というこの解答の執筆者の解釈が読み取れる(「基づいて〜判断した」という表現から)。


しかしその解釈では、保安官は単にMomの証言を信じましたということになり、文学的な面白みが半減するではないか。
それに保安官も蜂の巣のあざを確認しているし、保安官もこの死体がHoney Boyであることは知っているはずである。


ということで、解答は間違った解釈をしている。
それどころか、解答を書いた人はこの死体がHoney Boyではないと解釈してるようにも見えなくもない。
しかもこの(8)の、妙に素直な書き方(保安官が無実の男だと言ってる→じゃあMomは無実の男だと言ったのだ)からみるに、本当にこの解答の執筆者がこの死体がHoney Boyではないと判断してるとすれば、それはもう、ただの馬鹿である(この死体がHoney Boyであるという僕の解釈が妥当なものならば)。


とはいえ、まあ流石にそれはないか。
でまあ僕が一番あり得ると思う解釈は、解答執筆者ははこの死体がHoney Boyであると知っていて、それを知りながらMomの言葉を信じた保安官の心も知っていたのだが、ここでそのような複雑な事情を説明してしまうと、この問題がそのような複雑な事情を勘案しないといけないため、答えが一意に定まらないことを認めてしまうので、それをごまかすためにこのような単純馬鹿みたいな解答を書いたという解釈である。


さきほどの「Momは嘘をついたんだけど、その心を保安官が慮った云々」という解釈は「That's not Honey Boy.」という発言を軸に組み立てたものであるが、ここが空欄にされているとその解釈をするのは難しい。
たとえば、この空欄に「I'm sure this is my son.」という選択肢を入れたとして、次のような解釈が成り立つ。
・死体はHoney Boyのものだった
・Momは正直に答えた
・しかしBig Blueの反省する様子もまったく見えない様子を見た保安官は罰として彼を逮捕することにした
という解釈である。
正直、この重要な発言が空欄であいているときに、この解釈が間違いであるとする有力な証拠は見当たらない。
これは解答が一意に定まらないという点で出題ミスと言えると思う。


そこで解答執筆者は「ほらここで保安官は「無実の男」って言ってるでしょ。ということはMomの発言も「これはThat's not Honey Boy.に決まってるじゃん」と論理が(馬鹿みたいに)明らかな解答を載せることで、この問題のミス(解答が一意に決定できない)を隠蔽しようとしたのではないだろうか?








【まあ実際どうなのよ】
ていうかそんなに無理な主張をしてるつもりはない。
まあ出題ミスかどうかはおいておくとしても、この解説が不正解を排除するのに十分な根拠を示してないと言ってもいいと思う。
僕も勢いで書いてるところはあるので無理があることを書いてるかもしれないので何かおかしいところがあれば。

ちなみに出典はこの本らしいです↓
http://www.press.umich.edu/titleDetailDesc.do?id=8721