腹落ち

もう35歳になる年度なので、人間ドックを受けてきた。
あの検査着を着せられるのはロートレックの「ムーラン通りの医療検査」のような気分になるわけだが、腹部エコーされながら薄暗い天井を眺めていると、見知らぬ天井ならぬ、これがやがて還っていく天井かと、そういう心持ちになった。
分けても最大の関門が胃カメラで(最初だからせっかくなのでということでバリウムではなく胃カメラにした)、喉の麻酔をしてくれるも、基本的には吐きそうになる危険があるわけだが、「こちら」から介入できるのは基本的に認知だけなので、以下の点を意識するよう心がけた:
・吐きそうな感覚にフォーカスしないよう心がけた。*1
・この医師は何千回と繰り返したいつものルーチンをやってるだけで、大したことはない処置なのである。これは排水管の工事と同じ工学的な問題にすぎない。そうさ、脊椎動物の身体なんてちょっとよくできた排水管だ。

胃の中の映像を見せてくれるわけだが、これは見たほうがいいか見ないほうがいいか人によると思う。
自分の身体を撮影したリアルタイムの映像は自分の身体の物質性を意識させ、ある種の幽体離脱のような感覚をもたらし、吐きそうな主観的感覚から切り離してくれる可能性もあるが、一方で生々しい「肉」の映像はかえって身体の生き物感を増大させ、気持ち悪くなってしまうかもしれない。自分は後者の可能性を恐れたので、映像を見ることは拒否したのであった。


あと、胃カメラもだいぶ奥まで入ってくると、喉近辺ではなく「腹」でカメラの存在を感じられるわけだが(「深堀りする」と並んで自分は正しい日本語とはみなしていない「腹落ちする」感覚とはこういうことかと)、腹にその存在を感じたときに、反射的に満腹感・満足感を覚えてしまったのは笑った。はー食った食った。

*1:注射のときも有効