選択公理と同値な線形代数の命題

齋藤毅『線形代数の世界―抽象数学の入り口 (大学数学の入門)』で、系2.4.7の証明における(1)→(2)の証明においてV'の存在をなぜ言える?と思ったが、暗黙に系1.6.8(部分空間は直和因子になる)を使っているのか。
(なお、僕が参照しているのは2007年初版(!)であり、別の版では違う記載ぶりになっているかもしれない)
なお、「全射線形写像f:V→Wがあるとき、Vの部分空間V'で、fのV'への制限がWへの同型になるものがある」…(*)は(ZFにおいて)選択公理と同値になる。
(参考)
linear algebra - Is a vector space isomorphic to the kernel $\oplus$ image of a map out of it? - Mathematics Stack Exchange

上記のstackexchangeでは選択公理と系1.6.8の同値性を経由して(*)から選択公理を導いているが、(*)→選択公理の直接証明は、以下のような感じ(で証明できているはず)。

(*)を仮定する。
\emptyset\notin F, Fはdisjointとして、Fの各元との交わりがシングルトンとなるようなCの存在(この存在が選択公理のstatement)を示す。
写像f:\cup F \rightarrow Fx\in f(x)となるように定める。
\cup Fの、2元体\mathbb{F}_{2}の元を係数とする形式的線形結合*1\cup Fを基底とする\mathbb{F}_{2}-線形空間をなす。これをVとする。同様に、Fを基底とする形式的線形結合のなす線形空間Wとする。
fが誘導するVからWへの\mathbb{F}_{2}-線形写像\varphi:V\rightarrow Wとする。
(*)より\varphiの制限\varphi|V':V'\rightarrow Wで同型となるものがある。
F\subset Wと見ることができる。\varphi|V'線形空間としての構造を忘却してFの逆像をCとすると所望の性質を持つ。
(練習問題:\varphiのkernelを求めよ。)

なお、系1.6.8の証明では代数の本ではよくあるようにZorn補題が使われているが、集合論に心得のある人はZorn補題ではなくて元を一列に並べて超限再帰*2を使うほうが望ましいと誰かも言っていたと思う*3ので、みんなもそうしよう。

*1:formal linear combination

*2:transfinite recursion

*3:望ましい理由は自信なしだが、僕の考えでは、多くの数学者の直観では(人によっては素朴な)超限再帰で構成していると思う。