タイトルについては最後にちょろっと触れます。
以下、"effort"を「努力、試み」と訳すのが不適当な場合について。
とあるWSJの記事に以下のような記述があった。
(引用者注:Covid-19のワクチン接種について)...the most ambitious vaccination effort in U.S.history.
As efforts ramp up, ...
(Covid-19 Vaccine: What You Need to Know When You Get the Shot - WSJより)
とあった。
1個めのeffortは「試み」とも訳せるが、2個目に至って「努力」「試み」では変なことに気づいた。
ramp up=(数が)増えるということだが、
「努力」も「試み」も「増える」というのにはそぐわない。
というのは、試みとか努力は、このワクチン接種というプロジェクト全体で1個であって、1個2個と数が「積み上がる」というようなものではないから。
そう考えると、この"effort"は、「(個々の)接種」、各1回1回のその接種、と解すのがいちばんしっくり来るのではないか。
そう思ってOALDを引くと、ちゃんと語義として取り上げられている。
1番めが「努力」に当たる語義(the physical or mental energy that you need to do sth.)、2番めが「試み」に当たる語義(an attempt to do sth especially when it is difficult to do)で、3番目の語義として
[C](usually after a noun) a particular activity that a group of people organize in order to achieve sth.
(例)the Russian space effort/the United Nations' peacekeeping effort
(Oxford Advanced Learner's Dictionary 8th editionより)
とある。しかも、説明と例文からすると、特に「国家」とかがするものによく使われるようだ。
いちばんしっくり来る訳語は「事業、活動」だろうか(「ロシアの宇宙事業」、「国連の平和維持活動(事業)」)。
しかし、よくよく考えると、先の引用の1個目の用例については、"vaccination effort"のeffortが"after noun"(vaccination)にあること、国家によるものであることも説明と合致するので「(予防接種)事業」と訳すのがしっくり来るが、「事業」もどちらかといえば集合的に用いられ、2個め"as efforts ramp up"の"effort"にふさわしい語義と考えられる1回1回の接種の結果、というのはこの3番目の語義とは少しずれる。
むしろ、"as efforts ramp up"の"efforts"が該当するのは、4番目の語義として挙げられているこちらか。
[C] the result of an attempt to do sth.
(例)I'm afraid this essay is a poor effort.
(ibid.(OALD 8th))
この語義は、個々の「試み」の結果の各々のインスタンスをも指すようだ*1。
しかし、色々小難しく考えているが、この辺の微妙な違いは話者によっても違うかもしれない。
例えば自分にとっては日本語の「(接種)事業」は集合的に使われ、個々の接種のことを指すのはおかしいと感じられるが、必ずしもそう思わない人もいるかもしれない(自分からすると、そのような人は「言語に対する感覚が緩い」と思ってしまうが、規範的になりすぎるのもかえって言語の活力をそぐ姿勢かもしれず、ある程度おおらかになった方がいい気はする)。
この記者の"effort"の用法も、辞書の説明とは厳密には合致しないかもしれない。
しかし、そのように言語がある程度の幅を許容するからこそ、やはり訳すにあたっては、「ニュアンスを汲み取って」注意深く訳すべきであって、英和辞書に書いてある訳語を適当にあてはめるべきではないし、そのための基礎として、辞書に出てくる語義を「ふんふんこういう感じかー」と流し読みするのではなく、それぞれの違いを玩味すべき。
さて、タイトルについてだが、これも辞書には明確に書いてある話で、
holiday
1[U] a period of time when you are not at work or school
(例は引用者抜粋)the school holidays/away on holiday
2[C] a period of time spent travelling or resting away from home
(例は引用者抜粋)a camping/skiing/walking, etc. holiday/a foreign holiday/We went on holiday together last summer.
(ibid.(OALD 8th))
とあり、2は明確に「どこかで過ごす期間」とされている。日本語の「休日」は単に仕事がオフの日、という意味であり、「家から離れて旅行や休養でどこかにいる」ことを前提とする意味はない。この語義にあたる一言の日本語の単語はない。文化の違いだろう。
訳語としては1は「休日」、2はものによっては「休日」とも訳せるが、「旅行」と訳す方がしっくり来るのも多い。
抜粋した例はそれぞれキャンプ旅行、スキー旅行、徒歩旅行、外国旅行、「この前の夏、一緒に旅行に行った」であり、「一緒に休日に行った」だともはや意味が通らない。