エミリー、パリへ行く1-1

(シーズン3まで観終わってから書いている)
(公式の字幕を引用している)
(いったん公開したあとまた非公開にしたのち、追記済み)

冒頭、エミリーがランニングをしているシーン。
Apple Watchで運動習慣を管理。健康にも気を遣っている有能な女性をイメージさせる感じ。
Appleも全面協力している感じか。

Madeline Wheeler, named director of marketing for Franco firm

基本的なことだけど、"name Madeline Wheeler director of marketing for Franco firm"はSVOCの文型だけれども、Oだけ取っ払って後置修飾や関係代名詞に使えるんだね。
いやつまり、He was given the most prestigious award in architectureはSVOO(give him the award)の1個めのOが受動態になっているわけじゃん?
まぁこれはSVOCと言ってもどっちも名詞句だけれど。

Francoで「フランスの」でいいのかな?Franco-Germanとかは言うけども、ここでは単にFrench firmと言うのと同じ?

I am here to prove that a Master's in French does not go to waste.

アメリカにもこういう「特に直接仕事に役立つわけじゃない学位をとって文系就職する」みたいなのあるんだね。

social initiative

イニシャチヴと発音していたのを聞いて驚いた。
カタカナ語のイメージがあったのでそういう発音もあることを知らなかった(が、言われてみればtiaで「シャ」になるのは普通である)。

If you like it, you can pitch it later.

pitch売り込む

自分のアイディアなのに上司に花をもたせるエミリー。いい人である。
実際、エミリーは日本人の感覚からすれば少し押し付けがましいので、
作劇技術的には過剰なくらい「いい人」として描かないと、視聴者が反感を持ち感情移入できない可能性がある。

for your hurrah

hurrah 声援。「フレーフレー」のフレー。

Emily: I don't want to step on your toes.
Madeline: You're not. You're stepping into my shoes.

step on someone's toes つま先を踏みつける→転じて、いらぬことに首を突っ込んで邪魔をする
step in(to) someone's shoes 靴を履く→転じて、跡を継ぐ
対応する表現のきれいなやりとりだが、やや「作った」感がある。
あくまで実際に生じた表現として解釈すると、エミリーの側がマデリンにこのセリフを「言わせてる」のかもしれない。

マデリンが香水を嗅いで気分が悪くなるシーンは、直接的には妊娠が発覚することを示すシーンだが、
後のフランス文化に対する無理解を暗示しているシーンとも言えるかもしれない。

[retching]

retch 吐き気を催す、吐く

エミリーが彼氏とバーで野球観戦(シカゴ・ブルズ戦)をするシーン。
過剰にシカゴ的、「アメリカ的」な場として描かれている。
隣の客はシカゴ・ブルズのワッペンをつけている。
彼氏の背後の壁には星条旗らしきものがかかっている。

エミリーは、野球のルールさえよくわかっていないのに彼氏と盛り上がる。
彼女がいい子であることを示すと同時に、
彼氏の思いやりのなさがそれとなく示される。
彼氏が勝手に「ビール2つ」と頼むシーンにもそれは現れる。
が、エミリーはやんわり拒否してフランスのワインを注文。もちろん彼女がフランスに行く気になっていることを示す。
このハイスペっぽくてかわいいエミリーが、オスみの強そうな自己中心的な男と付き合っている、というのはリアリティあるかもしれない。(現実世界をよく知らないので自信なし)

I have some crazy news

とエミリーが切り出して、さっそく不安げな顔をする彼氏。
この男は、女から"news"などを聞かされることは求めていないのだ。
goodであれbadであれ、newsをもたらすのは全て自分。
女はそれに従っていればいい、そんな考えの持ち主だから、
いいとも悪いとも分からないnewsだという時点で、不安げな表情を浮かべるのだ。
こんな不快な男とは2話で別れて正解!不快なのでとっとと退場してくれてありがたい。
この男、後のシーンでも不安がる。

feel nauseous

気持ち悪くなる、吐き気がする
発音注意。(UK:ノージアス、US:ノーシャス)
関連: nausea(noun) 吐き気

She was having a lot of going-away sex.

彼女はたくさん「送別エッチ」をしてたみたい。
cf.
going-away gift/party 送別の品、送別パーティ

(マデリンはパリに行かないことになったと聞かされて)So, there goes your promotion?

there goes ... ...がどこかへ行ってしまう、(転じて)なくなる
マデリンが赴任してエミリーが穴埋めで昇進、という話がなくなってしまったの?ということ。

American eyes and ears to help with the whole transition...

必要なのは「アメリカ人の目と耳」とされる。
これもある種エミリーの謙虚さが現れたセリフ。
「私が有能だから選ばれたんじゃなくて、「アメリカ人」が求められてただけ。
しかも能力が求められてたというよりは「目と耳」で単に見守ることが求められただけ。判断するのは本部。
というニュアンスを出して、謙遜している。
(実際にはもちろん有能だから選ばれたのであるが)

しかし、いくらここでエミリーが謙遜して見せても、
このドラマ全体に、
SNSの活用とかではフランス人よりアメリカ人が優れているから、それを教えてやるのだ」という
植民地主義が基調として流れていることは確か。
絵画や建築などの「伝統的な文化」では決してアメリカ人はフランス人にかなわないが、*1
アメリカ発のSNS文化が世界を席巻した今、それをアメリカ人がフランス人に教えるのである、という微妙な文化的構図(文化的優越と、それに対する反撃)があることは間違いなく、フランス人たちのエミリーへの期待又は反感も良かれ悪しかれこの図式を前提としていることに注意する必要がある。

And just to explore the idea, here's a spreadsheet I made for the next year.

わざわざExcelにまとめるあたり、何でも明確化し、計画し、プレゼンすることを好むことが示される。
有能さの証明でもありアメリカ的合理性を体現する人物であることをも示している。
それにしても、僕はそういうタイプではないので、「なんでも計画するのが好きな人」「書き出すのが好きな人」とかにリアリティを感じられない。

Fake it till you make it.

「ふり」をしてれば、やがてそれが本当になる(本当に成功する)。

カメラがシカゴ川に潜って、水面に出てくるとセーヌ川だったという渡仏の表現、しゃれてる。
旅するために水に潜る、という表現は、(アメリカとヨーロッパを隔てる)大西洋が"the pond"と俗称されることを思い起こさせる。「おたくとうちとは、水たまりを挟んでお隣よ」というような。

不動産業者から早速モーションをかけられるエミリー。
全編通じて、「パリではアヴァンチュールが普通。ステディな関係の外だろうと中だろうとどんどん恋愛・セックスしないと!だってそれがパリだから!」という雰囲気が漂っている(シーズン2-3ではエミリーはやや貞淑になってしまった感があるが)。
これがセクシスト的かつ悪しきステレオタイプなのかについては議論あるところ。個人的には、フランス人も「まぁアメリカと比べればフランスはそうですよ」という反応が出るかもしれないとは思った。

That is our speciality.

(引用者注:シカゴピザに関して)

シカゴピザが自慢だと言って馬鹿にされるエミリー。かわいそうだが、正直自分がフランス人だったらああいうリアクションをしてしまうだろうと思った。

しかしこういうのはよくないね。自分が持っているものが相手より優れていることが明白で、そのことに相手が気づいていないとき、相手の無知を論うことは慎まなければ。
自分の持っているものが優れているというその事実だけで満足していればいいのだ。

…と民主的な倫理に従えばそうなのだが、ことはそう単純ではないかもしれない。
ヒトというこのサルは、コミュニケーションにおいて常に序列を確認せずにはいられないのかもしれない。
実際、自分がパリジャンで、アメリカ人から「食文化は対等!それぞれいいところがある!」という態度で来られたら耐えられないかも。

And without pleasure, who are we?

このあとリュックも似たような主張をする、「アメリカ人は合理性を重んじすぎている、フランス人は人生を楽しむ」という話。

But to build a brand, you must create meaningful social media engagement.

meaningful = 意味のあると訳してしまいがちだが、ここでは「有効な」に近い。
ODEでもsubsenseとして"serious, important, or worthwhile"が示されている。

ソーシャルメディアの担当者が先程英語がわからないとして会議を退出したパトリシアだと聞かされて)Makes sense.

戸惑ってどうしていいかわからないときにとりあえず礼を失しないよう発する言葉としての「なるほど」が訳としてぴったりくる。

It's about content, trust, interest, and engagement.

訳すなら「(企業のソーシャルメディア戦略においては)発信の内容、信頼性、興味深さ、そしてエンゲージメントが重要です。」くらいか。
「内容、信頼性」はいい。しっくりくる。
しかし「興味深さ」とは?説明的に書けば、そのコンテンツが持つ興味を引くところ、面白さというくらいか(そう、「興味深さ」よりむしろ「面白さ」が適切かもしれない)。
ただ、はっきり言えば普通の日本語には「興味深さ」とかいう単語は存在しない(あえて直訳調で喋る変人の語彙以外には)。
「興味」という単語はある。
しかし日本語において「興味」は「興味を持つ」「興味がない」といったコロケーション内では用いるが、「興味」という単独で使う例は少ないのではないか。(たとえばTwitterのbioで「興味:旅行、映画鑑賞」というような書きぶりはありうると思うが、自分としてはこれは「興味を持っていること」等の略と考えられる、ややくだけた用法だと思っている)
その点、英語はhave interest in~と人間が持つものを指すこともできるし、この例のようにモノ・コンテンツの側が持つ性質を指すこともでき、結構融通無礙であることだ。

Hey, look what I got.

パスポートを見せる彼氏。
今まで海外旅行をしたことがないことを示唆、「海外に出る必要を感じていないアメリカ人」として描いているのであろう。

You're lonely, you text me, we have dinner.

ミンディいい奴や〜
僕もこんなお友達ができるかしら。

Sybil! Laurant!

ミンディがみている子どもたちの名前。
シルヴィと(後に登場する)夫のローランを意識?

Bonjour, la...

エミリーをLa plouc(田舎者)と呼ぶいじめに加担しないリュック。いい人だ。


エミリーのフォロワー数がどんどん増えていく演出。
ドラマのタイトルはエミリーのSNSのアカウント名と同じであり、
どうもこの第1話の時点で制作陣は、このドラマを「エミリーがSNSを駆使してパリで恋に仕事に奮闘するお話」に
する予定だったと思われる。
ただ実際にはSNS要素は直接的にはフィーチャーされなかった印象。

*1:と言ってもよく知られているようにパリの美しい街並みはオスマン知事による大改造によって作られたものであり、オスマン知事の時代はアメリカが影も形も存在しなかったというような大昔ではないし、パリとアメリカは自由の女神を交換してさえいるけれども。