鍵と錠

考えてみれば日本語は「鍵」の一言で鍵も錠も指してしまうことが多い。

しかし、考えてみれば勝手に開かないようにするためにドアなどに設置される機構と、それを解放するために用いる器具は別の概念である。
英語ではkeyとlockで区別されているが、日本語の感覚ではこの区別は希薄だ。
このことは、(語の変遷をちゃんとたどっているわけではなく単なる推測だが)「かぎ」が和語だが「錠」には訓読みがないことにも表れていると思う。

というわけで、日本語話者が英語でなにか言おうとしたときに、このlockという語に意外と思い至らなかったりする。
My key to our apartment was stolen, so we need to change the lock.(マンションの鍵を盗まれちゃったから、鍵を交換しないと)
と言おうとするときとかに。

「ロック」という英語由来のカタカナ語の存在もlockの概念をわかりにくくしている。
日本語の「ロック」は、自分の感覚だと、「鍵がかかっている状態」という文脈で使うことが多いと思う。
「ロックが掛かっている」とか「ロックしとかないと」とか「ロックされた」とか(つまりもっぱら動詞のlock由来?)。
しかし、モノとしての錠のことをカタカナ語の「ロック」で指す人は、ルー大柴的な人しかいないと思う*1
結局、モノとしての錠の概念は日本語話者の感覚にはあまり存在しないので、カタカナ語の「ロック」にも、このモノとしての錠の意味は含まれていない。

そういうわけで、「鍵を交換しないと」でつい"we need to change the key"と言いたくなってしまう。

*1:厳密に言うと、特殊な機構としてのロックについては、ロックをモノを指す名詞として使う場合もあるように見受けられる。洗濯機などについてる「チャイルドロック」とか。でも、やはり「玄関のロックを交換しないと」は言わないと思う。